ミシンの基礎的メンテナンス

ミシンは一世紀半以上の歴史がある成熟した工業製品です。本来は歯車やギアなどの機械部品だけで十分機能し、機械工学の常識に沿って適切に手入れしていれば、部品がある限りかなり長期間使用できました。

 

しかし、ミシンはメーカー間の競争、ユーザーの多様の要望に応えるために多機能化がすすみました。電子回路から最近はメモリーや多機能集積回路などパソコンと変わらないような部品を搭載する機種も出てきています。

 

それに従い部品も複雑・繊細化し、個人ユーザーが手入れできる範囲はどんどん狭まっています。

 

また、家庭用ミシンは女性ユーザーが多いこともあり、製品を軽量化させるために部品が鉄製から軽いアルミ製に変わってきました。アルミは鉄に比べると性質的に強度が低いものです。

 

さらに最近は一部の機構がプラスチックに置き換わっている製品が出ています。プラスチックは鉄や天然素材に比べ経年劣化が激しいだけでなく、耐久性がないため厚い生地を縫ったりして負荷をかけると消耗が早くなります。そのため、どうしても製品寿命が短くなっている印象を否めません。

 

それでもユーザーがミシンを長持ちさせるためにできるメンテナンスの方法はあります。

 

まず何より大切なのは機体をホコリから守ることです。

 

保管時はカバーがけやケース収納をするのはもちろんですが、通常使用していても、特に針板の下の釜とボビン部分にホコリや糸くずがたまってしまいます。この針板の下は、一部の特殊仕様製品を除けばほとんどの製品で取り出せます。

 

釜はボビンを収納する部品ですが、ボビンをはめる内釜とそれを包む外釜を組み合わせて使います。この内釜と外釜の組み合わせで下糸を上糸のループに通します。釜は縫い目がきれいに出てゴミがたまりづらい垂直型とボビンが見やすくてつけ外しがしやすい水平型に分かれています。垂直型はプロ仕様、水平型は一般向けの機種に搭載されることが多いです。

垂直型の内釜(金色)と外釜(銀色)
垂直型の内釜(金色)と外釜(銀色)

内釜と外釜とその周りにホコリや糸くずがたまると、糸が切れる・絡まる、縫い目の飛びができる要因になり、それを放置すると部品の損傷にいたります。各機種には釜回りのごみ除去用のブラシが付属することがほとんどですので、それを使って丁寧にごみを取りましょう。パソコン用のエアダスターで吹き飛ばしても大丈夫です。

 

加えてできれば、内釜と外釜の間に潤滑油を1滴注入したいところです。ただ、水平型の釜のミシンを中心に注油が禁止されている機種もありますので、必ず説明書に目を通してから行ってください。

外釜の隙間から内釜の外側に潤滑油を1滴たらす。
外釜の隙間から内釜の外側に潤滑油を1滴たらす。

ポイントは1滴だけたらすことです。内釜と外釜の回転によって油は引き伸ばされますので、1滴で十分行き渡ります。量が多すぎると、内釜と外釜の間を通る糸が汚れてしまいます。量を多くすることよりも、こまめに行うことで油を切らさないようにすることが大切です。

 

潤滑油の注入が終わったら、要らない布で試し縫いをしてください。これは針や糸についた油をとるのと、潤滑油を行き渡さらせる効能があります。

 

ゴミの除去は月1回、潤滑油の注入は使用毎に行うのが理想です。

 

これは機械全般に共通することですが、腐蝕や陳腐化を防ぐ最良の方法は長期間の放置は避け、定期的に動かすことです。特にミシンは機械式の部品が多数使われているので錆が大敵です。理想としては特に縫製が必要なくても、季節の変わり目ごとに機械を動かしたいところです。

 

釜とボビン部分は稼働時は常に動くミシンの中核部品です。それ故にメンテナンスをちゃんとしていても、針が接触したりして傷ついてしまう時があります。その場合でも、ヤスリをかけて釜の傷を削るのはおすすめしません。経験のない人が削ってもまず上手く行きません。また、不適切なヤスリがけが釜以外の部位の故障に波及する恐れもあります。

 

見落とされがちですが、機体を湿気から守ることも大切です。特に湿度が高い季節は、機構の内側に水分がたまりやすくなります。ここから錆が生まれ、部品の不調につながります。

 

台所や押し入れなど湿度の高いところへの保管を避けるのが基本です。ただ、保管場所の問題でそのような場所に置かざるを得ない場合があります。

 

ハードカバーの専用ケースにミシンを収納しているのであれば、カメラ売り場で売っている乾燥剤をケースの中に入れてください。ミシンカバーだけしかない場合は、製品の外箱か形状にあった段ボールを選んで収納した方がいいでしょう。その場合、箱の中に乾燥剤を入れることをお忘れなく。

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